ディスコグラフィ   ジ・エクセプションズ

THE EXCEPTIONS COLLECTION (2004/2)
THE EXCEPTIONS

曲目 [日本国内盤未発売]
ジ・エクセプションズ
総評

試聴♪

曲目 <国内盤未発売のため、邦題は単純にカタカナ表記にしてあります>
01 DAYDREAMING OF YOU デイドリーミング・オブ・ユー
02 SEARCHIN' サーチン
03 COME ON HOME カム・オン・ホーム
04 DANCING DANNY ダンシング・ダニー
05 HOLY, HOLY, HOLY ホリー、ホリー、ホリー
06 OUR FATHER アワー・ファーザー
07 LAMB OF GOD ラム・オブ・ゴッド
08 LORD HAVE MERCY ロード・ハヴ・マーシー
09 GLORY TO GOD グローリー・トゥ・ゴッド
10 ASK ME IF I CARE アスク・ミー・イフ・アイ・ケア
11 DO-DO-DO-BAH ドゥ・ドゥ・ドゥ・バー
12 AS FAR AS I CAN SEE アズ・ファー・アズ・アイ・キャン・シー
13 THE GIRL FROM NEW YORK
(=THE GIRL FROM NEW YORK CITY)
ガール・フロム・ニューヨーク
(=ガール・フロム・ニューヨーク・シティ)
14 MY MIND GOES TRAVELING マイ・マインド・ゴーズ・トラヴェリング
15 BUSINESS AS USUAL ビジネス・アズ・ユージュアル
16 WHY DO YOU HURT ME
(=YOU ALWAYS HURT ME)
ホワイ・ドゥ・ユー・ハート・ミー
(=ユー・オールウェイズ・ハート・ミー)
17 YOU DON'T KNOW LIKE I KNOW ユー・ドント・ノウ・ライク・アイ・ノウ
総評

元シカゴの ピーター・セテラがシカゴ加入以前に在籍していたクラブ・バンド、ジ・エクセプションズ。


その貴重な音源集が、元メンバーであるジェイムズ・ヴィンセントの尽力により、ついにCD化(厳密にはCD-R化)されるに至りました。

当初は、2004年2月頃から、ジェイムズ・ヴィンセントのオフィシャル・ウェブサイトを通じて販売が開始されていました。

そして、2007年4月からは、It's About Music.comのウェブサイトに販売が移管されています(支払方法の確認等はメールにて気軽に相談してほしいとのことです)。

なお、日本国内では、disk unionさんでお取り扱いがあるようです。もっとも、2007年4月からは上記のように販売移管が行われるため、日本国内の流通経路にどのような影響を与えるかは判然としません。

試聴はこちらでできます。


ところで、
このアルバムは、そのジェイムズ・ヴィンセント自身が自主製作的にCD化したもののようです。従って、ほぼ“CD-R”と同等の作りと言っていいでしょう(但し、上記It's About Music.com販売分もCD-Rなのかどうかは不明)。

音源は、一応デジタル・リマスターされています。また、擬似ステレオ化が施されています。もっとも、この擬似ステレオについては、多少違和感を覚える方もおられるかもしれません。


ちなみに、ジェイムズ・ヴィンセントは、『SPACE TRAVELER: A MUSICIAN'S ODYSSEY』という自伝を執筆しています(詳細は、ジェイムズ・ヴィンセントのオフィシャル・ウェブサイト「News / Links」欄まで)。

この著書では、音楽を通じた自らの考えないし半生が描かれています。また、地元を同じくするシカゴの面々との交流についても語られています。しかも、本人曰く、そのほとんどが「今まで書かれたことがないこと」ばかりとのこと。

私も読破したわけではないのですが、たしかに、シカゴをめぐる知られざるエピソードが盛り込まれていると言って妨げありません。それも、青春時代の若さゆえのピーター・セテラとの衝突、妙にウマの合ったテリー・キャスの壮絶死から受けたショック、低調な活動をしていた自分へ親身になってサポートしてくれたダニエル・セラフィンのことなどなど―――、赤裸々な話であるのに、至って淡々と語られているのが印象的です。


ジ・エクセプションズは、カル・デイヴィッド(ギター、ヴォーカル)、マーティー・グレッブ(キーボード、サックス)、デニー・エバート(ドラムス)らが中心となって結成した、地元シカゴのクラブ・バンド。結成は、1961年頃と言われています。当初は、ヴォーカルがカルしかいなかったため、“カル・デイヴィッド&ジ・エクセプションズ”と名乗っていました。

その後、まもなく、ピーター(当時はピートと呼称)・セテラ(ベース、ヴォーカル)が加入。初期の主要メンバーは以上の4人と言ってよく、本CDの1曲目から4曲目までもこの4人を中心に録音されています(1964年)。

1965年になると、肝心のカル・デイヴィッド、デニー・エバートが相次いでバンドを離れ、バンド名も単に“ジ・エクセプションズ”と短縮されるようになります。そして、彼らに代わって新たにメンバーとなったのが、ジェイムズ・ヴィンセント(ギター、ヴォーカル)と、ビリー・ハーマン(ドラムス)の2人。このマーティー、ピーター、ジェイムズ、ビリーというラインナップで録音されたのが、本CDの5曲目から13曲目までです(1966年)。中でも、新加入のビリー・ハーマンは歌えるドラマーでして、メンバー4人全員がヴォーカル・パートを分け合うなど、コーラス・ワークが非常に充実してきます。

最後に、1967年になって、マーティー・グレッブが、"カインド・オブ・ア・ドラグ"(67年)の大ヒットを飛ばした直後のバッキンガムズに引き抜かれると、バンドは新たにジミー・ナイホルト(キーボード)を迎え入れます。そのニュー・ラインナップで吹き込んだのが14曲目から17曲目です(1967年)。この頃になると、演奏テクニック、構成などは飛び抜けてきます。とくに"WHY DO YOU HURT ME (=YOU ALWAYS HURT ME)"と、 "YOU DON'T KNOW LIKE I KNOW"のクオリティの高さには目を見張るものがあります。


さて、本CDは、このようにクラブ演奏を中心にした6年あまりの活動期間中に残された数少ない録音盤の集大成です(なお、ジェイムズ・ヴィンセントによれば、ジ・エクセプションズは、全部で18曲録音しているとのこと)。

ところが、彼らには予算がなかったため、モノラル用のスタジオしか借りることができず、また、中には、1〜2時間で仕上げられたようなケースすらあるそうです。

但し、冒頭にも述べましたが、今回のCD化にあたっては、音源が擬似ステレオ化されており、加えて、デジタル・リマスター処理もなされています。


若き日のピーター・セテラ(20歳すぎ)、そして、地元シカゴを取り巻く多くのミュージシャン(ちなみに、彼らは今でもグループのシカゴと交流があるようです)が明日を夢見て思いを馳せた記念碑的作品集。その大半はカヴァー物ですが、彼らのセンスの選曲の良さに脱帽します。ぜひお手元に。


さて、この後、ピーター・セテラは、方向性の違いや、グループ内の人間関係のいざこざに嫌気がさすようになり、新しい道を模索すべく、のちにシカゴの前身であるザ・ビッグ・シングに加入することとなります(1967年12月)。

一方、マーティー・グレッブは、最近も重要な話題があります。つまり、シカゴのロバート・ラムの新作『SUBTLETY & PASSION』において、"YOU NEVER KNOW THE STORY"をロバートと共作し、旧交を温めていたりします。

また、ジェイムズ・ヴィンセントは、ロバートのファースト・アルバム『SKINNY BOY』の"CITY LIVING"にギターで参加していました。以降も、シカゴの面々とずっと交流があるようです。

01

DAYDREAMING OF YOU
デイドリーミング・オブ・ユー

JACKIE DESHANNON JESSICA SHEELY

ジャッキー・デシャノンとジェシカ・シーリーの作品。

02

SEARCHIN'
サーチン

JERRY LEIBER MIKE STOLLER

ジェリー・レイバーとマイク・ストラーの共作品。

このレイバー&ストラーは、50年代から60年代にかけてソングライティングとプロデューサー業で一世を風靡した名コンビ。1987年ロックの殿堂(関係者部門)入りを果たしています。黒人グループへの楽曲提供が目立ちますが、一方で、エルヴィス・プレスリーとの仕事も有名。"ハウンド・ドッグ"や"監獄ロック"などは彼らのペンによるものです。

この"SEARCHIN'"は、コースターズのヒットで知られる曲(57年)。かのビートルズも、メジャー・デビュー前のライヴ活動の中で頻繁に演奏していたようです。1962年の元旦にオーディション用に録音したトラックが、彼らの『アンソロジー1』(95年)に収録されています。

コースターズは、50年代後半に活躍した5人組R&Bグループ。1987年にロックの殿堂(アーティスト部門)に入っています。

ちなみに、ビートルズは1988年、エルヴィス・プレスリーは1986年に、それぞれロックの殿堂(アーティスト部門)入りをしており、まさに、殿堂がらみの作品というわけです。

03
COME ON HOME
カム・オン・ホーム
KAL DAVID MARTY GREBB PETER CETERA

このコレクション・アルバム中、唯一、ピーター・セテラが作曲に関わった作品。

04

DANCING DANNY
ダンシング・ダニー

CALVIN CARTER

05

HOLY, HOLY, HOLY
ホリー、ホリー、ホリー

MARTY GREBB

本アルバム中、5曲目から9曲目は、クリスチャン・ミュージックです。

これらは、マーティー・グレッブの“ROCK'N'ROLL MASS”というプロジェクトが契機となって録音されたものです。ここに≪MASS≫とは、いわゆる礼拝の≪ミサ≫のことを指します。そのため、タイトルもポップ・シーンのそれとは若干趣を異にしています。

06
OUR FATHER
アワー・ファーザー

MARTY GREBB

07

LAMB OF GOD
ラム・オブ・ゴッド

MARTY GREBB

08

LORD HAVE MERCY
ロード・ハヴ・マーシー

MARTY GREBB

09

GLORY TO GOD
グローリー・トゥ・ゴッド

JAMES VINCENT

10

ASK ME IF I CARE
アスク・ミー・イフ・アイ・ケア

D. CAMPBELL

11

DO-DO-DO-BAH
ドゥ・ドゥ・ドゥ・バー

M. SHAPIRO

12

AS FAR AS I CAN SEE
アズ・ファー・アズ・アイ・キャン・シー

MARTY GREBB

13
THE GIRL FROM NEW YORK
(=THE GIRL FROM NEW YORK CITY)
ガール・フロム・ニューヨーク
(=ガール・フロム・ニューヨーク・シティ)
BRIAN WILSON

ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの作品。『SUMMER DAYS (AND SUMMER NIGHTS !!)』(65年)収録。

原題は、"THE GIRL FROM NEW YORK CITY"なのですが、ここでは、なぜか最後の≪CITY≫が割愛されています。

14
MY MIND GOES TRAVELING
マイ・マインド・ゴーズ・トラヴェリング
JAMES VINCENT JIMMY NYEHOLT

15
BUSINESS AS USUAL
ビジネス・アズ・ユージュアル
JAMES VINCENT W. RICHARDS

16

WHY DO YOU HURT ME (=YOU ALWAYS HURT ME)
ホワイ・ドゥ・ユー・ハート・ミー (=ユー・オールウェイズ・ハート・ミー)

CURTIS MAYFIELD

ジ・インプレッションズ在籍時のカーティス・メイフィールドの作品。

カーティスは、1999年に個人でロックの殿堂(アーティスト部門)入りを果たしますが、同年12月に惜しまれつつ他界。享年57歳。

グループのジ・インプレッションズは、1957年に結成された、ゴスペルを基調とするソウル・ヴォーカル・グループ。俗に言う“シカゴ・ソウル”の代表格。当初5人組として出発しますが、1962年には3人組に。しかし、ここからが彼らの黄金時代。カーティスの高音と、張りのあるバックの低音が織り成すコーラス・ワークは圧巻。

中でも、カーティス・メイフィールドは、グループの大半の曲を手掛け、地元シカゴを代表するソングライターとして名を馳せます。同じくシカゴを拠点に活動するジ・エクセプションズがこのカーティスの曲を取り上げるのは何の不思議もなく、むしろ、リスペクトの意味が込められていると見ていいでしょう。ちなみに、1985年、ジェフ・ベックとロッド・スチュワートがタッグを組んだ"ピープル・ゲット・レディ"は、このカーティス・メイフィールドの65年の作品です。

原作のタイトルは"YOU ALWAYS HURT ME"で、1967年の作品。販売元でもあり、ジ・エクセプションズのメンバーでもあったジェイムズ・ヴィンセントに確認をとりましたところ、本曲はやはりこの原曲をカバーしたものだということです。しかし、なぜタイトルが"WHY DOU YOU HURT ME"になっているのかは不明。もっとも、両フレーズとも歌詞の一部であることに変わりはありません。

さて、原曲の方では、カーティスの高音ヴォーカルが炸裂。リズム楽器とメロディが一体となったドラマティックな仕上がりに思わず魅了されます。

一方、ピーターが歌うこの曲も極上。哀愁を帯びたヴォーカル。切なさよりも心をズタズタに引き裂かれた情感がこもっています。

しかも、録音された時期には、サックスを担当していたマーティー・グレッブがすでにグループを去っているにもかかわらず、縦横矛盾にブラスが交差しており、スリリングさを増しています。

原曲がソウル・フィーリングなら、このカバー曲の方はさながらロック・フィーリングですね。大好きな曲です。

17

YOU DON'T KNOW LIKE I KNOW
ユー・ドント・ノウ・ライク・アイ・ノウ

ISAAC HAYES DAVID PORTER

アイザック・ヘイズとデイヴィッド・ポーターの作品(65年)。

オリジナルはサム&デイヴ。彼らは、サム・ムーアーとデイヴ・プレイターからなる男性デュオ。2人のパワフルな掛け合いに、いつしか人は彼らのことを“ダブル・ダイナマイト”と呼ぶようになります。50年代から70年代にかけて、メンフィスのソウル・シーンを席巻した、史上最高のソウル・デュオと言って妨げないでしょう。

彼らは、この"YOU DON'T KNOW LIKE I KNOW"と同じように、ヘイズ&ポーターの提供作を多く歌い、中でも、"ホールド・オン(HOLD ON, I'M COMING)"はR&Bの大古典。

サム&デイヴは1992年に、作曲者のアイザック・ヘイズは2002年に晴れてロックの殿堂(アーティスト部門)入りを果たしています。

歌詞の内容を見てみると、これがなかなか面白いのです。≪あの娘が俺のためにしてくれたこと、そのことをお前は俺ほどには知らないのさ≫というサビ。何のことかと思えば、どうやら、以前は愛し合っていた彼女にフラれた“俺”(=≪I≫)が、彼女の新しい男(=≪YOU≫)にやっかんでいる様子を歌っているようです。つまりは、負け犬の遠吠え的作品?

原曲の方は、サム&デイヴ2人のダイナミックな掛け合いで進行していきますが、ジ・エクセプションズの方は、もっぱら、ピーターの一人舞台。歌詞も若干変更が加えてあります。しかし、ピーターのヴォーカルも並々ならぬ迫力を見せ、ブラス・ワークとあいまって強烈な作品に仕上がっています。この曲も大好き!