2003年8月にリリースされた、ロバート・ラムのソロ第4弾『SUBTLETY & PASSION』。日本語読みすると、『サトルティ&パッション』となります。≪B≫は発音しません。
プロデュースは、ロバート自身とハンク・リンダーマンによる共同作業。この点、ハンクに確認しましたところ、一部の曲だけでなく、全曲とも2人でプロデュースしているとのことです。
このアルバムが発表された当時、すでにロバート・ラムのオフィシャル・ウェブサイトの存在が一般に広く認識されていましたので、本人も気さくにフォーラムに登場し(現在はmyspaceが中心です)、ここを通じて、本作について実にいろいろなことを語ってくれています。
そこで、まずは、リリース前後のロバートのコメントから推察される、彼の今回のアルバム作りのコンセプトについてまとめたいと思います。
第1に、ボサノヴァをはじめとするブラジル音楽のスタイルを取り入れようとしています。2曲目"SOMEWHERE GIRL"、6曲目"FOR YOU, KATE"、11曲目"IT'S A GROOVE, THIS LIFE"などのサウンドはこのコンセプトの賜物でしょう。
第2に、シカゴの過去現在を含めたメンバーないし友人との共同作業により製作しようとしています。このコンセプトからして最大の目玉は、故テリー・キャスのギターをフューチャーした8曲目"INTENSITY"であろうかと思います。現メンバーも、都合のつかなかったビル・チャンプリン以外、全員が参加していますし、過去のメンバーであるクリス・ピニックの協力も仰いでます。また、歌詞の中身も、娘ケイトのこと、友人としてのテリーのこと、などプライベート色が強くなっているものが散見されます。さらに、今回の共同プロデューサーであるハンク・リンダーマン、あるいは、ゲスト参加のジェリー・ベックリー、ティモシー・B・シュミットらの豪華布陣は、すべてロバートの個人的なつながりが大いに反映された人選です。
第3に、自らが見聞きした日頃の事象を歌詞の中に織り込むというロバートの作詞手法は、世紀を超えても変わることはない、ということです。とくに、時期的なこともあって、4曲目"GIMME GIMME"や7曲目"IT'S ALWAYS SOMETHING"といった楽曲からは、2001年9月11日に起こった世界同時多発テロ事件以後のアメリカ社会に対するロバートならではの鋭い洞察を看取することができます。
このようなコンセプトのもとに製作されたと思われる本アルバムを、試聴段階ではじめて聴いたときの私の印象は、「シカゴであって、シカゴでない」といったものでした。強いて言えば、これが1つ目の私の内容総括です。
たしかに、シカゴ・ホーンズの参加によりブラスも響き渡っていますし、曲自体もはじめはシカゴ用に用意されたものもあるようです。
しかし、ロバートのソロである以上当たり前のことですが、ロバートの単独ヴォーカルが全般を占めています。そこには、シカゴ特有の掛け合い、すなわち、ビルやジェイソンとのパワフルでダイナミックな掛け合いはありません。むしろ、ジェリー・ベックリーやティモシー・B・シュミットらとのウエスト・コースト的な、さわやかでやわらかいコーラスが美しいまでに決まっています。
また、ロバートのソロ・ワークと比較すると、第1弾の『SKINNY BOY』(74年)にみられたロマンティックな雰囲気が脈々と横たわりつつ、その上で、例のベックリー・ラム・ウィルソンによる『LIKE A BROTHER』(2000年)などで垣間見られた、すがすがしさを感じ取ることができます。私自身が、ジェリー・ベックリーの在籍するアメリカを、好きで聴いてきたこともあり、その流れでこの『SUBTLETY & PASSION』を聴くと、以上のようにシカゴとは異なって聴こえる部分が多々あるようです。
さらに、サウンド面で特筆すべきことは、上記ブラジルのラテン風味とともに、ポップス、ジャズ、フュージョン、そして、レゲエといった実に幅広い要素が含まれているということです。
加えて、現代のテクノロジーが至るところに導入されていることが分かります。まず、機材では、V-DRUMSの使用、また、音源修復では、テリーのギター音源を収蔵したメディアのクリーニング、さらに、製作では、ループなどのサンプリング技術の多用などなど・・・、今や珍しくもないこれらの作業が当然のように行われています。しかし、これが妙な陳腐さを感じさせないところが素晴らしいと思うのです。
“ロバートが、シカゴでできないことをする”、すなわち、様々な既成の枠を取り払い、なにものにも束縛されない、自由な音作りをしたい、そんな願いが形になったような気がします。これが私が感じたもう1つの内容総括です。
さらに、ロバートは、次のようなことも言っています。
ある日、キース・ハウランドが、「『SUBTLETY & PASSION』は、『シカゴV』以来のベスト・ロバート・ラム・アルバムだと思います」と語ったそうです。それに対して、ロバートも、「私も本当にそれに同意しています」と。本作はまさにそういった掛け値なしのRL作品です。
なお、文中、“ロバート・ラム本人のコメント”とあるのは、ロバートのオフィシャル・ウェブサイトに掲載された彼のコメントを意訳かつ補充したものです。正直、翻訳には自信がありません。従って、間違い等は平にご容赦ください。
ところで、当アルバムのタイトル、≪SUBTLETY & PASSION≫の意味について、ロバート本人がこんなことを語ってくれています。
「このフレーズは、私の音楽的なアプローチを描写したものです。そして、それは、人生の転機で“あなたたちが直面する”試練や、万事尽くした結果に対して提示できる1つの回答でもあります」と。
このうち、≪subtlety≫という単語は、前後の文脈がないと大変訳しづらい言葉のように思えます。一例を挙げると、≪微妙≫、≪精妙≫、≪敏感≫、≪狡猾≫、≪不思議≫などなど―――、それだけでは把握しがたい感じのする単語なのです。
一方の≪passion≫の語は、もちろん、≪情熱≫や≪激しい感情≫のことを意味します。
個人的には、これら2語をロバートの哲学に合うよう、各自御検討いただくのが一番だという結論に達しました。というより、イマイチ把握できていないのです。すいません・・・。
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