85年5月、突如、シカゴからの脱退を表明したピーター・セテラは、ソロ第2弾となる本アルバムの製作にとりかかります。
その製作中、ピーターは、ユナイテッド・アーチスツ・レコード社から、同社が担当するサントラ、『ベスト・キッド2』用の曲のオファーを受けます。はじめにピーターが提示した曲は、アップ・テンポな"THEY DON'T MAKE 'EM LIKE THEY USED TO"だったようです。しかし、会社側が求めていたのは、バラードでした。
そこで、ピーターは、まだ未完成だった本曲"GLORY OF LOVE"をその場で何小節か歌います。その会社の社長と副社長はこれをたいそう気に入り、ピーターは曲の完成に向けて動き出します。
ところが、この作業がなかなかうまく行かず、壁にあたります。そんなとき、ピーターがメロディに合わせて何やらつぶやいていると、妻のダイアン・ニニにはそれが「glory of love」と言っているように聴こえたそうです。そこから2人で共作し、書き上げたのが本曲ということです。残念ながら、その後、2人は破局しますが、2人の残したこの曲は、ピーターの本格的なソロ活動のスタートを華々しく飾る、永遠の傑作となりました。
もっとも、以上の経過には、今まで知られていなかった事実が存在していました。すなわち、2007年6月に行われたピーター・セテラのインタビューによりますと、実は、この"GLORY OF LOVE"は、『ベスト・キッド2』よりも先に、『ロッキー4』のオファーに応じたものであったそうなのです。ピーターは、実際に、『ロッキー4』のプレゼン用の試写を観ています。だからこそ、この曲には、≪I am a man who will fight for your honor≫という歌詞が含まれているのだそうです。しかし、何らかの原因により、結局は『ロッキー4』のサントラには採用されませんでした。そして、後年、上記『ベスト・キッド2』のユナイテッド・アーチスツ・レコード社がピーターに接触して来たというのが事の真相のようです。
ところで、『ロッキー4』の全米公開は1985年11月でした。そうしますと、かなり早い段階から、ピーターにオファーがあったということです。これはピーターの脱退時期である同年5月と照らし合わせても興味深い話題となりそうです。
さて、私が最初にこの曲を聴いたのは、湯川れい子さんの全米TOP40でした。待ちに待ったオン・エア解禁。ビードロが流れるような、きらびやかなイントロに心を奪われたことを昨日のことのように覚えています。聴いた瞬間、「絶対1位になるっ!」と確信したものです。その通り、この曲は、86年6月7日に62位で初登場するや否や順調にチャート階段を駆け上がり、8月2日と9日に見事NO.1を獲得します。
内容に関しては、とにかく、≪glory of love≫という言葉の訳し方がうまくできず、当時からその微妙なニュアンスを捉えることに難儀しました。直訳すると、≪愛の栄光≫ですから、これはすなわち、“愛というすばらしいもの”、もしくは、“愛で一杯の状態”、とでもいった意味に捉えることができそうです。≪この愛というすばらしいもののために、僕らはすべてを賭けてきたんだ≫、≪そのことに僕らは気付き、やがて永遠に暮らして行くんだね≫。こんな感じでしょうか。
映画『ベスト・キッド2』は、大ヒットした前作に続く格闘友情物語第2弾で、86年公開。今度は沖縄(ロケ地はハワイ)を舞台にし、師弟それぞれの恋愛模様をメイン・テーマに据えた映画でした。但し、“あえて”なのか、単に考証を怠ったのか、日本文化に対する誤解が多く垣間見られた映画でもありました。もっとも、こういったことはお互いの国の映画に散見されることですので、取り立てて騒ぐほどのこともないでしょう。
なお、ピーターの歌うこの曲はエンディングに使用されていたと記憶しています。この曲のプロモーション・ビデオにも、映画のシーンがふんだんに引用されていました。
そうそう、さすがにサントラらしく、この映画に合わせてか、騎士道精神みたいなものを歌詞全体から汲み取ることができます。まず、サビの冒頭、≪僕はキミの名誉のために戦う男さ。キミが夢見ているヒーローになってみせるよ≫という部分、また、後半、≪ピカピカの鎧で固めた古代の騎士のように、見事キミを救って、はるか古城に連れ戻すのさ≫といった部分などはその代表。
結局、曲のテーマは、歌詞の一節にあるように、≪いつまでもキミを愛していくよ。決して1人にはしないよ≫ということだと思います。
ところで、本アルバムを店頭で見かけることは最近は非常に少なくなりました。ですが、この"GLORY OF LOVE"自体は各種コンピレーション物に多数収録されています。
さらに、2005年には、シカゴの『LOVE SONGS』が発売されました。その日本国内盤は、シカゴのラヴ・ソング集であるにもかかわらず、ピーターのソロ・ヒットである、この"GLORY OF LOVE"も収録されています。しかも、音源がリマスターされているので、この曲をお探しの方には、『LOVE SONGS』が断然のおすすめです。
(参考文献:『ビルボード・ナンバー1・ヒット1985-1988』)
|