デビュー以来7年目にしてはじめて獲得したNO.1ソングです。
当アルバム『シカゴX』は、その制作過程において、よくある「あと1曲足りない」という状況に追い込まれました。そこで、半ば即興的に録音されたのがこの"IF YOU LEAVE ME NOW"なのです。もっとも、1日や2日で出来たものではもちろんないと思います。とはいえ、そういう経緯なので、この曲に後付けされた部分は、全般に流れるストリングス・パートなどごく限られたもののようです。
そのストリングスのアレンジは、映画の背景音楽などで有名なジミー・ハスケル(JIMMIE HASKELL)が担当しています。ここにストリングスとは弦楽器のことを言いますが、それが具体的にバイオリンであるかどうかなどは不明です。
ハスケルはこの曲と"MAMA MAMA"において、ストリングスのほか、フレンチ・ホーンのアレンジを担当してます。彼のおかげでシカゴは第19回グラミー賞においてベスト・アレンジメント賞を受賞しました。シカゴ・ファンとしては、同じジミーでも、パンコウじゃないとこがチト辛い?
内容は、情けないくらい女々しい優男(やさおとこ)の語りです。≪今君が去ると僕はとても大きなものを失う。だから、お願い、行かないでおくれ・・・≫。でも、こういう歌を歌わせたらピーターの右に出る人はいないのではないでしょうか。
個人的に好きなのは、≪A love like ours is love that's hard to find≫から始まるサビの部分にストリングスが重なる箇所です。とくに、2分20秒あたりの≪We've come too far to leave it all behind≫とクロスするストリングスの調べには鳥肌が出るくらい感動します。
また、歌詞にはピーターの作詞の特徴がとてもよく出ています。つまり、ポール・マッカートニーばりの韻を踏むところですね。まあ、万国共通の作曲テクニックではありますが。
……part of me
……heart of me
……hard to find
……all behind
……slip away
……this way
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しかし、この曲が元で路線の違いが明確になるという副作用を生じてしまいます。
つまり、あくまでもロックンロールを地で行きたいとするグループ全体の意志と、のちのAOR路線につながるバラードを所望するピーターの嗜好との違いがこの曲を前後にもはや決定的となります。
しかも、この"IF YOU LEAVE ME NOW"は世界中でヒットしたため、初期の“バリバリロック”のシカゴを知らないファン層をも獲得し、その結果、シカゴは“ピーターの甘く切ないバラードを歌うバンド”という評価が世間では広く定着してしまったようです。
実際、当アルバム以降はたびたびピーター単独の楽曲がアルバムに収録されることとなります。とくにピーターのブラス離れは急速に進行します。こうなると、初期からバンドを引っ張ってきたロバートやテリーの出番はなくなります。現にチャート上の話ではありますが、2人のヴォーカル作品はシングル化されてもさして奮(ふる)いませんでした。
もともとアルバム志向のバンドであるとはいえ、世間やバンドの路線が自分の思惑から外れていく様子について、ロバートやテリーは相当歯がゆい思いをしていたようです。こうして、後に『ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)』以降でさらに“売れてしまった”バラード曲の数々もあいまって、シカゴは自らが思うイメージとの違いに苦慮することになります。
とはいえ、この"IF YOU LEAVE ME NOW"は、単純に素晴らしいと評価できる曲ですよね。メンバーももっと素直に捉えて欲しかったなあ〜、と思えてなりません。もっとも、ライヴではとても楽しそうに演奏してくれていて、この曲が大好きな私としてはとても嬉しく思っています。
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