ディスコグラフィ   シカゴ(16)

CHICAGO 16 (1982/5)
CHICAGO

曲目 ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)
シカゴ
総評

試聴♪

Produced by DAVID FOSTER

曲目 <ライノ再発盤のボーナス・トラックの邦題については単純にカタカナ表記にしてあります>
01 WHAT YOU'RE MISSING ホワット・ユー・アー・ミッシング
02 WAITING FOR YOU TO DECIDE あなたの気持ち
03 BAD ADVICE バッド・アドヴァイス
04 CHAINS チェインズ
05 HARD TO SAY I'M SORRY /
GET AWAY
素直になれなくて/ゲット・アウェイ
06

FOLLOW ME

フォロー・ミー
07 SONNY THINK TWICE ソニー・シンク・トゥワイス
08 WHAT CAN I SAY ホワット・キャン・アイ・セイ
09 RESCUE YOU レスキュー・ユー
10 LOVE ME TOMORROW ラヴ・ミー・トゥモロウ
<ライノ再発盤ボーナス・トラック>
11 DADDY'S FAVORITE FOOL ダディズ・フェイヴァリット・フール
総評

デビュー当時からの辣腕(らつわん)プロデューサー、ジェイムズ・ウィリアム・ガルシオと袂を分かち、また、メンバーであったテリー・キャスを不慮の事故で失ったシカゴは、70年代後半から80年代初頭にかけて、時代的な不遇もあって、急速に失墜し、まさに極度の不振に陥ります。

しかし、一番ファンをヤキモキさせたこの時代にあって、シカゴ復興計画は着々と進行していました。

15作目となるベスト盤『シカゴ・グレーテスト・ヒッツ VOL.2』の発表後、彼らは正式に古巣コロンビアを離れ、あらたにワーナー傘下のフル・ムーンというレーベルに移籍します。そして、ここで新たに16作目となる本作『ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)』をリリースすることになります。これが82年のことでした。

プロデューサーには若くて才能あるデヴィッド・フォスターを起用し、ライター陣も外部から積極的に招聘(しょうへい)します。

さらに、新メンバーとして、自らバンドも率い、当時はソロとスタジオ・ワークに従事していたビル・チャンプリンを迎え入れます。

曲はピーターのヴォーカルによるバラードを多く収録。全体的にブラス・ロック色は薄れ、AOR調のLAバンド化の様相を呈します。中でも、"素直になれなくて"が大ヒット。まさに起死回生の一作となります。

また、MTVブームに乗り、初のプロモーション用ビデオ・クリップが作成されました。アルバムも最高位第9位を記録します。

このように布陣を刷新したシカゴは、直近数年間の不振が嘘のように見事一線に復帰することになります。

シカゴは死ななかったのです!


なお、
本アルバム『ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)』は、2006年10月3日に、ライノからリマスター&ボーナス・トラック付きで再発されています(輸入盤)。同年4月26日の再発国内盤は録音レベルの調整によって音量を上げていましたが、今回のライノ盤は真のリマスターです。実際、4月の国内再発盤よりもさらに音量・音質が向上しています。そのうち、"WHAT YOU'RE MISSING"と"LOVE ME TOMORROW"はシングル・バージョンとなっています。

01

WHAT YOU'RE MISSING
ホワット・ユー・アー・ミッシング

JAY GRUSKA JOSEPH WILLIAMS

長年シカゴ・ファンをされてきた方たちにとって、このレコードに針を落とし、冒頭のこの曲を聴いたときの感想というのは一体どういうものだったのでしょう?

いきなり耳慣れないシンセの響き・・・。これだけで、受け付けなかった往年のファンもいたかもしれません。

しかも、1曲目を他人のペンで飾ることに!

ちなみに、共作者のジェイ・グルスカはマクサス、ジョセフ・ウィリアムスはTOTOにそれぞれ在籍していた人物です。これらの人脈もデヴィッドつながりだと思います。なお、中田利樹さんによれば、“グルスカ”ではなく、“グラスカ”というのが正確な発音だそうです。

このように、この曲はシカゴ生まれではないので、なんとも言えませんが、歌詞をよく見ると、面白いことに気付きます。

≪キミがつかみ損ねた答えは、はなからキミ自身の中にあったんだよ。心の声をキミはただ聴こうとしなかっただけさ。今になってキミは僕に会いたいと言う。離れ離れになってから答えを見つけた、とね≫。

私にとって、この一節は“シカゴ・ファンへの呼びかけ”に聴こえました。つまり、「シカゴはここ2〜3年スランプを迎えたけど、新たなスタートを切った。はじめは抵抗があるかもしれないけど、後でこの意味が分かっても遅いよ!」というメッセージに、です。そういった意味では、デヴィッド・フォスター版"ALIVE AGAIN"に映りました。

02
WAITING FOR YOU TO DECIDE
あなたの気持ち

DAVID FOSTER DAVID PAICH STEVE LUKATHER

≪キミは僕のためならどんなことでもしてくれる、かつてはそんな風に思っていた≫。

しかし、≪実際のキミは毎晩泣いてばかり。しかも、いざとなれば逃げるだけで、今やその隠れ場所すらなくなっている。僕はもうキミの決断を待ち切れない≫。

≪議論は堂々巡り≫。≪僕はまだキミに未練があるんだ。たとえキミに不可解な点があっても・・・。ああ、キミが嘘ばかりついていたとは思いたくない・・・≫。

一心に彼女を愛しようとする主人公。しかし、肝心の彼女の気持ちが分からない。"あなたの気持ち"という邦題は意外にや的を射ているのではないでしょうか。

ところで、78年1月のテリー・キャスの事故死を受けてシカゴに加入したドニー・デイカスは、同年の12作目『ホット・ストリート』と翌79年の13作目『シカゴ13』の製作に携わった後、80年1月には早くもバンド側から解雇されてしまいます。

そのため、80年の14作目『シカゴXIV』では、ヴォーカリストはピーター・セテラとロバート・ラムのみ。2人のヴォーカル・パートが交錯するシカゴらしい曲もあることはありましたが、どちらかというと、各人のソロ・パートを中心に、バンド全体がバック・コーラスを加えるといった形の楽曲が増えてしまったのも事実です。

このことはライヴにも反映されます。本作『シカゴ16』が発表されるまでの1〜2年間は、上記ドニー・デイカスを欠いたままでライヴを敢行していたせいもあって(クリス・ピニックはヴォーカルをとりません)、演奏曲の幅が極端に狭まってしまいました

しかし、この"WAITING FOR YOU TO DECIDE"では、ピーター・セテラのハイ・トーン・ヴォーカルで始まり、これをビル・チャンプリンがソウルフルな低音ヴォーカルで受ける、といった、パート分けが物の見事にはまっています。このコンビネーションは、次作『シカゴ17』に収録された"HARD HABIT TO BREAK"などにも如実に反映されて行きます。ロバートの都会的なセンスとは違って、R&Bに基礎を置くビルの加入によって、節ごとにヴォーカルを分け合うシカゴ・ミュージックの真骨頂も、新鮮な気持ちで堪能することができる点は特筆です。

その他、たしかに、シンセサイザーは大幅に導入されましたが、ちゃんとブラスも利いています。つまり、まさにシカゴ・ワールドがふんだんに盛り込まれている曲なのです。しかも、新加入のビルの声はピーターの声に実に良くマッチし、ピーターの声も伸びがさらに出て、力強い印象を受けます。

なお、本作ではロバート・ラムの作品やソロ・ヴォーカル・パートが激減し、ロバート・ファンにとっては歯がゆい思いを強いられた瞬間であったかもしれません。

ですが、違うのです。ロバートは、新メンバーが加入したとき、自ら一歩引いて互譲してしまうのです。歴史が証明しています。これはロバートの性格なのでしょう。そして、プロデューサーの判断に任せるというプロ・ミュージシャンらしい一面を強く持っている人物なのです。

もちろん、多少のジレンマがあったのは事実です。現に80年代中期には"SCHITZOID"という曲を構想し、その苦悩の様には察するに余りがあります。

しかし、その辺りはソロ・アルバムを発表したりしていることで適度な平衡感覚が取れているようです。また、実際いまだにバンドのフロントマンとして絶大な存在感を示していることはご承知の通りです。悲観する必要はまったくなかったということです。

03

BAD ADVICE
バッド・アドヴァイス

PETER CETERA JAMES PANKOW DAVID FOSTER

シカゴらしくブラスのアンサンブルで始まります。

この"BAD ADVICE"を含め、"HARD TO SAY I'M SORRY"、"RESCUE YOU"、"LOVE ME TOMORROW"と、ピーター・セテラが関わった作品はすべて彼女の会話が歌詞中に盛り込まれています。

内容は、行き違いの男女が不幸にも別れる話。もちろん、切り出すのは彼女の方。とてもあっさり切り捨てます。

具体的に何が≪バッド・アドヴァイス≫なのか分かりませんが、とにかく、その≪バッド・アドヴァイス≫が2人の間に溝をもたらし、結果として男はメタボロに・・・。

04
CHAINS
チェインズ

IAN THOMAS

≪面倒は起こしたくないし、波風も立てたくはない≫、とどこか日本人的風情を感じる歌詞から始まります。海外の人も同じことを思うのか、と変な感心をしてしまいました。

気が咎めようが、自分の本性は表に出さない。しかし、反面、鎖に縛られて動けない自分がいる。その縛りは一時(いっとき)のものと言い聞かせる主人公ですが、社会との関わりを断ち切れるものではなく、その鎖を非常に重いものと実感するに至ります。

しがらみから逃れようとするが、決して逃れることはできない、とする木枯し紋次郎的作品。ピーターが長いつまようじをくわえて歌っていると想像するととても楽しい曲です。

作者のイアン・トーマスは、カナダ出身のミュージシャン。この曲のオリジナル・バージョンは、81年の『THE RUNNER』というアルバムに収められていました。彼は、他にも、アメリカの"RIGHT BEFORE YOUR EYES"という名バラードを書いています。

05
HARD TO SAY I'M SORRY / GET AWAY
素直になれなくて〜ゲット・アウェイ

PETER CETERA DAVID FOSTER [HARD TO SAY I'M SORRY]
PETER CETERA DAVID FOSTER ROBERT LAMM [GET AWAY]

シカゴというバンド名は知らなくても、この"素直になれなくて"のメロディを聴いたことがある方は多いのではないでしょうか。とくに近年では、車や化粧品、電力会社のCMでも頻繁に流れていたので、ご記憶あるかと思われます。

また、この美しいバラードは、バンドにとっても非常に大きな意味を持つ曲となりました。

77年11月、シカゴは、金銭面・製作面での亀裂から、プロデューサーのジェイムズ・ウィリアム・ガルシオを解雇。さらには、翌78年1月、バンド結成の当初から中心的な役割を果たしてきた、テリー・キャスを拳銃の暴発事故のために喪失。歯車が狂ったシカゴは、ここから急激に失速し、いわゆる冬の時代を迎えます・・・。とくに79年から81年にかけての活動状況の低調さには目を覆うものがありました。

そんな中で、シカゴは82年、アルバム『ラヴ・ミー・トゥモロウ(シカゴ16)』のプロデュースを、のちに名プロデューサーとして名を馳せる、デヴィッド・フォスターに託し、また、新メンバーとしてビル・チャンプリンを迎え入れます。この新風が功を奏し、アルバムは久々に好成績を収めます。

そして、その復活の原動力となった、この"HARD TO SAY I'M SORRY / GET AWAY"は、76年の"IF YOU LEAVE ME NOW"以来、実に6年振りの全米NO.1を獲得します。今でこそ6年というのはたいした年数ではないかのように見えますが、当時の落ち込み様からすると、甚(はなは)だ奇跡的で、まさに起死回生の1曲と位置付けるのもあながち過言ではないでしょう。

また、同曲は映画『青い恋人たち(SUMMER LOVERS)』でも使用され、話題となりました(曲の方が)。なお、ロバート・ラムによれば、この曲はアルバム用に用意された曲であって、映画のために書かれたものではないそうです。従って、映画の方が後ということです。

ところで、映画中に使用されたバージョンは、とても興味深いものでした。まず、複数の箇所においてエディット処理がみられます。そして、なんと!後半の"GET AWAY"への橋渡し部分のブラス・アレンジメントがアルバム・バージョンとまったく異なっているのです。ライヴで披露される形態ともちょっと違っています。この編集はとても面白いな、と思いました。別テイクと言っていいでしょう。


曲は、恋人から別れを告げられるが素直には受け入れられない男の話です。相変わらずの優男(やさおとこ)振りは"愛ある別れ"路線を順調に踏襲しています。

しかし、この"素直になれなくて"では、≪Hold me now≫、つまり、≪抱いておくれ≫というキーワードが入っているため、"愛ある別れ"において男がもっぱら説得的発言に終始したのとは異なり、相手方に行為を求めている点に特徴があります。さらに、今度は、≪自分から「ごめんね」とは言えない≫、ちょっとばかしカッコ付けした主人公像が描かれています。

この点、たしかに、この先2人はヨリを戻して行くようにも思えます。

しかし、この彼女が急に翻意(ほんい)するとはちょっと考えにくいのではないでしょうか。結局は、主人公の勝手かつ希望的観測の入り混じった絵空事的な願いととるのが無難かなと思いました。但し、この辺は意見が分かれるかもしれませんね。


さて、その歌詞については、ピーターお得意の韻を踏む作風がここでも出ています。

……a little time away
……I heard her say

それにしても、ここに出てくる≪Hold me now≫や≪After all≫といった語句を発声するピーターのハイトーン・ボーカルには男の僕でも惚れ惚れしてしまいます。稀代のヴォーカリストたる所以(ゆえん)でしょうか。


ところで、ピーターは、この曲について、 86年のラジオ「全米TOP40」内で放送されたインタビューで、次のようなことを語っています。

この曲は家に帰る車の中で思いついて考えた曲なんだ。家に着くと、頭の中に思い描いていた曲というのを実際に弾いてみて、それから1週間かけてメロディーを書き上げたんだ。この曲が出来た時は僕自身本当にハッピーだったよ。今でも、この曲は僕の好きな曲のうちの1つなんだ。チャートでも1位になったし、随分長い間チャートインしていたんだよ


なお、後半を飾るアップ・テンポな曲"GET AWAY"ですが、これはもともと別の曲でした。

"GET AWAY"の共作者でもあるロバート・ラムによれば、「この"GET AWAY"は"SACHA"からの引用だった」というのです。

これには驚かされました。というのは、"SACHA"自体は、てっきり99年発表のソロ・アルバム『IN MY HEAD』用に書かれた曲と思われていたからです。それが、82年の『16』セッション時にすでに提出されており、しかも、日の目を見たのは17年も後だったというわけです。ですが、当の"SACHA"の歌詞には、"GET AWAY"に出てくるような節がまったくありません。この辺は、実に不思議なところです・・・。

とにもかくにも、"SACHA"は、ロバートの愛する愛娘サーシャに捧げられた曲です。ですから、ロバートの言うように"GET AWAY"が"SACHA"の一部で、"HARD TO SAY I'M SORRY"に付加されたとしても、両曲の間に意味上何らかのつながりはない、ということになってしまいそうです。

ところで、この曲の結合について、ロバートはこうも述べています。「『16』にはほかに自分の作品がなかったので、デヴィッド・フォスターとピーター・セテラがこのような措置をとってくれて嬉しかったですよ」と。



さて、後年、97年になって、ア・カペラ・グループAZ YETが突如として、この"HARD TO SAY I'M SORRY"をカバーし、見事ヒットさせます(97年5月3日、第8位)。このシングル・バージョンには、なんと、ピーターの声がフィーチャーされていたのです。

し、彼らAZ YETのデビュー作『AZ YET』に収められていたアルバム・バージョンには、ピーターのヴォーカルは入っていなかったので、ご注意ください。

このようなアルバム・バージョンとシングル・バージョンでの違いは、以下の経緯に由来しています。

まず、AZ YETは、当然自分たちのアルバム用に、この曲のカバーを吹き込みます。

ところが、このカバーの件をのちに知ったデヴィッド・フォスターが、彼らにリミックス・バージョンの製作を自ら持ちかけます。この提案にAZ YETのメンバーは興奮しまくり、1000分の1秒の速さで「イエス!」と超即答したそうです。

その結果、デヴィッド・フォスターがピーターのヴォーカル部分をサンプリングした、「DAVID FOSTER'S REMIX featuring PETER CETERA」という名義のシングル・バージョンが完成します。そして、これがヒットしたというわけです。

なお、このAZ YET版のシングル・バージョンについては、コンピレーション物で見かけることがあります(例:『Kiss 〜 for million lovers 〜』)。ご参考までに。

記憶違いかもしれませんが、AZ YETのこのときのプロモーション・ビデオは、ピーターの声がフィーチャーされていないアルバム・バージョンを元に作られていたように思います。

Q&A 歌詞に関する疑問

"YOU'RE THE INSPIRATION" (New Version, Remix)

06
FOLLOW ME
フォロー・ミー
JAMES PANKOW DAVID FOSTER

作者のジミー・パンコウは、バンドの節目に、暗喩的なメッセージを含む曲を書くことがあります。まず第一に思い浮かぶのは、何と言っても、テリー・キャスを失ったバンドの気概を見せた"ALIVE AGAIN"でしょう。

ところで、本作"FOLLOW ME"も、そのようなメッセージ性を窺い知ることができます。

≪人生に、決断しやすいものなんて1つもない。そうだろ?簡単なものないんだ。そのときそのときを切り抜ける。急ぐ必要なんてないんだよ。自分の所在と行く先が分かっていればそれでいいんだ≫

≪さあ、僕についておいで。独りで生きていく必要なんてないんだよ。他には誰も要らない。一緒にベター・ライフを築こう≫。

≪人生に不可能なんてない。分かるだろ?人生は自分次第だよ。暗い過去も将来的には薄れて行く。さあ、今こそ生き返るときなんだ!≫

1978年に精神的支柱だったテリー・キャスを失ったシカゴは、その後、少なくともチャート上では苦戦を強いられます。前作15作目はベスト盤第2弾でしたが、記録上惨憺たる結果を喫しました。

また、70年代中盤から台頭して来たディスコ・ミュージックの余波を受け、80年代初頭のシカゴは、シーンから遠い所に位置するようになります。

しかし、時折りしもAORサウンドが脚光を浴び出し、シカゴもその波に乗るかのように、本作を発表します。

実は、“シカゴ復活”へのシナリオは舞台裏で着々と進められていました。まずは、コロムビアからワーナーへのレーベル移籍。そして、シカゴのAOR面に注目していた、新進気鋭のプロデューサー、デヴィッド・フォスターの起用。さらには、故テリー・キャスのヴォーカル・パートを担うことのできる人物、すなわち、ビル・チャンプリンの加入。加えて、外部作品の導入。いずれにしろ、斬新かつ大胆な発想を柔軟に取り入れて、本アルバムは製作されたのです。

ある種の“賭け”に出たとも思える、このバンドの節目に、持ち前のポジティヴな精神で、ジミー・パンコウはこの曲を書き上げた、そんな感じを受けるのです。また、あたかも恋人に問い掛けるような歌詞に仕上げるのも、ジミーらしい所以です。“とにかく、俺に付いて来い!困難な局面でも一緒に頑張ろうよ!”といった前向きなメッセージを受け取らなければそれは嘘というものです。

2006年に15年振りに発売されたフル・ニュー・アルバム『シカゴXXX』は、"FEEL"という非常にヒューマニズムあふれる感動的な作品で始まります。この曲は本作とは異なり、ジミーの作品ではありません。また、“覚めた時代かもしれないが、表面的な見方にとらわれず、物事の本質を心で感じ取ろう”という趣旨の歌で、必ずしも"FOLLOW ME"との共通性はあるとは言えないかもしれません。

しかし、両作品ともにバンドの節目に発表された曲であること、また、“いろいろ困難なことはあっても、それに対して前向きに取り組んで行こう”という呼び掛けスタイルになっていることは、類似しています。そして、そこに偉大な精神を看取することができる点でも共通性を見出すことができるように思われるのです。

なお、この『シカゴXXX』では、若手人気ミュージシャンのジェイ・ディマーカスをプロデューサーに迎えました。つまり、斬新かつ大胆なアイデアは、今もなおシカゴに息づいているのです。

ファンが考える以上に、バンドは柔軟で、そして、前進を続けているのです。

07
SONNY THINK TWICE
ソニー・シンク・トゥワイス
DANIEL SERAPHINE BILL CHAMPLIN

シカゴは、78年1月、バンドの精神的支柱であったテリー・キャスを不慮の事故で失い、茫然自失の状態に陥ります。しかし、プロのミュージシャンとして、サマー・ツアーのことを考えないわけにもいかず、テリーに代わるメンバーを探します。しかも、事は急を要しました。

そこで、シカゴは、オーディションによってドニー・デイカスを新しいメンバーとして迎え入れます。ところが、素行面に問題があったと言われるドニーは、78年の12作目『ホット・ストリート』と翌79年の13作目『シカゴ13』の製作に携わった後、80年1月には早くもバンド側から解雇されてしまいます。

その結果、シカゴにとっては異常な事態が生じてしまうことになります。すなわち、リード・ヴォーカリストがピーター・セテラとロバート・ラムの2人しかいないことになるのです。

そして、ここに実に興味深いデータがあります。

上記の異常事態を受けて、80年のサマー・ツアーは、ピーター・セテラとロバート・ラムの楽曲を中心に繰り広げるしか選択肢がなくなります。反面、シカゴにとっては、ある意味格別なコンサートとなりました。奇しくも、今となっては、ファン垂涎の内容ということになるのでしょうね。

以下がその当時のセットリストです。その構成に苦心の跡を看て取ることができるかと思います。

1980年7月27日 クリーブランド公演

ALIVE AGAIN
AMERICAN DREAM
SONG FOR YOU
QUESTIONS 67 AND 68
LITTLE MISS LOVIN'
MOTHER
NO TELL LOVER
THUNDER & LIGHTNING
SATURDAY IN THE PARK
SOUTH CALIFORNIA PURPLES
BEGINNINGS
GONE LONG GONE
MANIPULATION
JUST YOU N ME
FREE
(I'VE BEEN) SEARCHIN' SO LONG
MONGONUCLEOSIS
DOES ANYBODY REALLY KNOW WHAT TIME IT IS ?
25 OR 6 TO 4
IF YOU LEAVE ME NOW
I'M A MAN
GOT TO GET YOU INTO MY LIFE

さて、ここからが本題です。

この80年のツアーには、ドニー・デイカスに代わる新ギタリストとしてクリス・ピニックが随行しました。また、シカゴのメンバーとは60年代中期から親交があるマーティー・グレッブも同行しています。マーティーは、サックスといくつかのリズム・ギター部分のサポートを担当しました。どうやら、クリスは新メンバーとして紹介されたようですが、マーティーの方は、メンバーの友人という紹介のされ方をしたそうです。つまり、マーティーはもともとシカゴのメンバーという扱いではありませんでした。

ところで、クリス・ピニックはヴォーカルをとりません。従って、今後ずっとシカゴは、テリーのパートを含む曲をライヴで披露できなくなってしまいます。一体どうするのか―――?マネジメントも含め、彼らはとても悩んだと思います。

しかし、このとき、バンドに一筋の光明が指します。そう!ビル・チャンプリンとの接触です。メンバーのうち、とくにダニー・セラフィンは70年代の中期からビルの存在を知っていました。そして、ビルとダニーは80年か81年に、本曲"SONNY THINK TWICE"を共作するのです。

さらに、“ライヴでテリーのパートを歌える人物”を渇望していたバンドは、このビルに白羽の矢を立てます。81年の秋に、ビルに対して、正式メンバーとしてのシカゴへの加入を打診します。

その後のシカゴの活躍振りはもう他言を要しないところでしょう。このようにして、シカゴの復活劇は始まったというわけです。その土台となった曲がこの"SONNY THINK TWICE"です。その意味では、シカゴの歴史にとって重要な曲といえます。

思えば、1980年頃は、ファンにとっては、自然消滅さえ危ぶんだ日々だったはずです。今も私たちがシカゴの音楽に会えるのは、彼らがこの辺りの時代を一生懸命踏ん張ったからではないでしょうか?そう思えるセットリストです。

曲の内容は、おそらく、恋に破れた男に再考を求めるものです―――。

ところが、以上の経過を併せ読むと、とてもそんなお気楽な歌詞には聞こえません。外部のビル・チャンプリンと、メンバーのダニー・セラフィンがそれぞれの観点から見たシカゴの現状を指摘した、ある種自虐的な歌詞にも思えます。もちろん、ここまで深読みをする必要はないと思いますが・・・。

ずっとうまくいっていた
キミは自分が強い人間だと思っていたんだ
栄光には事欠かなかった
しかし、それは身に余り、また、尚早だったわけだ

間違いなんて起こるはずがなかった
彼女はいつもキミの歌を買ってくれた
なんてまあ悲しい話なんだ
過ぎた話ではあるんだが・・・

熱中するのはいいんだ
時機が合えば、そりゃ格好いいさ

坊や、考え直してごらん
ドアを閉める前にさ
僕のアドヴァイスを聞いてみて
キミの愛し方じゃ、もうこれ以上何も得られないんだよ
キミの人生の何かが間違っていたと思うしかない
とくに、キミを愛してくれた女性が去った後には、ね

キミは何をしたらいいか分からないじゃないか
いろんな問題が山積していたからね

キミは愛されることを恐れているんだ
あまりにも悲しい話ばかり目にしてきたからね
けど、しっかり自分を見据えなきゃいけないよ

後の楽しみのために我慢しなきゃ
悲しい話のために、袋小路に入り込んでいるのさ
でも、それはもう過ぎた話なんだ

そら、キミは何をしたらいいか分からないじゃないか
いろんな問題が山積していたからね

土曜日の夜のこと、彼女が気にしていないとでも思ったのかい?
しっかり見るといい
ちゃんと誰かがそこにいるものだよ

歌詞中にある≪She≫という言葉を、ぜひレーベルのコロムビアないしはシカゴ・ファン自身に置き換えてみてください。

そして、≪Saturday night affair≫とは何を示すのか?私は、ラジオのヒットチャート番組の暗喩ではないかと思いました。少なくとも、日本では土曜日に集中していましたよね。

08
WHAT CAN I SAY
ホワット・キャン・アイ・セイ

JAMES PANKOW DAVID FOSTER

シンプルな言葉に、韻を踏む手法。これは従来からジミー・パンコウがとってきた作詞方法です。しかも、ジミーが書いてピーターがヴォーカルを担当するという組み合わせは、過去にも幾度となく見られてきたパターンでもあります。

今回は、別れ際にしきりに昔の思い出をリンクさせる、というストーリー性を持たせながら、それなのになぜ僕の元を去るのか?と、いまだに原因を掴みかねて困惑する主人公が描かれています。

≪何て言っていいのか分からない。何をすればいいのかも分からない≫。こんなあきらめきれない自分に、最後では、強くあれ、と奮い立たせてはいますが、どうやらそれも空しい頑張りのようです。

イントロから終盤にかける全般において、ジミーの曲らしく、ブラスが控えめながらも非常に良いアクセントを提供してくれています。

09
RESCUE YOU
レスキュー・ユー

PETER CETERA DAVID FOSTER

ピーターが"HIDEAWAY"や"HOLD ON"で見せたドライブ感ないしグルーヴ感、これがデヴィッド・フォスターがプロデュースするとこうなるのか、という作品だと思います。

シンセサイザーだけがAORとは決して言いませんが、80年代のシカゴはたしかにLA風に味付けされています。この曲もシンセの軽やかな音によって全体的にポップな仕上がりになっています。ただ、そこに、先のドライブ感が残っているので、ポップな中にもグイグイと引っ張られるような曲調になっています。

ピーターは甘いバラードを披露する反面、このようなドライブ感あふれるアップ・テンポな曲も好んで歌います。この傾向はソロになってからも続きます。

一方、歌詞の内容は、なよなよした優男像ではなく、"SONG FOR YOU"に出てくる、頼れる男、または、後の"GLORY OF LOVE"に登場する騎士道精神みたいなものをイメージさせます。

恋人に捨てられ傷心している彼女に、自分の思いに耐えられなくなった主人公が、ここで手を差し延べられるのは僕だけだ、というもので、≪言ってくれ、僕が君を救いに行くよ≫とナイト(=騎士)的な語り掛けになっています。

≪君の人生には欠けている物がある≫、つまり、それは僕なんだ、というちょっとオーバーな言い回しですが、それはそれでピーターの持ってる作風の一面を見た気がします。

このように実質的前作『シカゴXIV』と聴き比べて本作を見てみるのも面白いと思います。

10
LOVE ME TOMORROW
ラヴ・ミー・トゥモロウ

PETER CETERA DAVID FOSTER

この曲は、"HARD TO SAY I'M SORRY / GET AWAY"の起死回生の大ヒットの余勢をかって、シングル・カットされ、スマッシュ・ヒットを記録します。

自分がいなくて寂しい思いをしている彼女。それをよく分かっている主人公。彼女は言います。≪今日みたいに明日も愛して≫と。互いに強い想いで結ばれているにもかかわらず、全体を包む暗澹たる曲調に、別れの曲?という連想も働いてしまいそうな曲です。いつもは優男振りを発揮するピーターですが、この曲では、不安な彼女側の心理に立って、物語を進めています。その点は非常に珍しいのではないでしょうか。

<ライノ再発盤ボーナス・トラック>
11
DADDY'S FAVORITE FOOL
ダディズ・フェイヴァリット・フール

BILL CHAMPLIN

ビル・チャンプリン作のデモです

以下は、海外の書き込みを参考にした歌詞です。

So young
She never fell in love
Her time has come
Almost everyone holds
The key to open up the door
Your time has come
Let me show you how
Let me love you now
Let me lay you down

She's a lady who never gets too close
Who never lets it go

She's so sexual to her lover
When they're playing by her rules
Intellectual to the others
She's as stubborn as a mule
Always sensible with her mother
She's her daddy's favorite fool
She's so cool

Sometime someone gonna find you
It'll be on your mind
It's been such a long time
Waiting to remind you
That your time has come
Let me show you how (Let me show you how)
Let me love you now (Let me love you now)
Let me lay you down

She's a lady who never got too close
Who never let it go

She's so sexual to her lovers
When they're playing by her rules
Intellectual to the others
She's as stubborn as a mule

She's so sexual to her lovers
When they're playing by her rules
Always sensible with her mother
She's her daddy's favorite fool

She's so sexual to her lovers
When they're playing by her rules
Intellectual to the others
She's as stubborn as a mule

She's so sexual to her lovers
When they're playing by her rules
Always sensible with her mother
But she's papa's favorite fool

She's so sexual to her lovers
When they're playing by her rules
Intellectual to the others
She's as stubborn as a mule