これより先、93年に発表されたロバート・ラムのソロ2作目『LIFE IS GOOD IN MY NEIGHBORHOOD』に収録されていた曲ですが、もともとはシカゴ用に製作されていたものだそうです。
しかし、それがこの『STONE OF SISYPHUS』を対象としたものであったかは、多少疑問が残るところです。というのも、ロバートのオフィシャル・ウェブサイトでは、この曲の製作時期は「1990年」とあり、年代的には、91年発表の『21』の方が符合するからです。もっとも、何らかの理由で『21』への収録が見送られ、その後、93年のソロ第2弾に収録する形に発展したのかもしれません。
いずれにしろ、このソロ・バージョンがアレンジを施されたうえで、ようやく本作『STONE OF SISYPHUS』への収録が決定した、と見ることができるのではないでしょうか。
ところが、ご承知のとおり、94年になってこの『STONE OF SISYPHUS』がお蔵入りをしてしまったわけです。なかなかうまくは行かないものです。
両バージョンの詳細な比較はソロ・バージョンの私的感想に譲り、ここでは多少触れるにとどめておきたいと思います。
まず、このシカゴ・バージョンの方では、ソロ・バージョンでは見られなかったギター・カッティングがイントロ部分に導入されていることにまず注目が行きます。
長らく、このギター・カッティングが誰の手によるものか判然としませんでしたが、どうやら、ビル・チャンプリンの演奏のようです。このことは、ロバートのソロ・ライヴ・アルバム『LEAP OF FAITH』における本曲の演奏終了時に、その旨のコメントをしていることから推測されます。とにかく、とても印象的なイントロです。もっとも、『THE BOX』のブックレットには、「ギターはブルース・ガイチ」とあります。結局、いろんな人のテイクを取ったということなのでしょう。アルバム収録曲に採用されたものは、そのうちの1テイクにすぎないのです。
これに対して、ライナーには、ギターはドウェイン・ベイリーが担当したと記載されています。ところが、ドウェイン自身は、次のように語っています。「私は、"ALL THE YEARS"では弾いていないのにクレジットされていて、"LOVE IS FOREVER"では弾いたのにクレジットされていません」と。
また、間奏部分には、2箇所にわたって引用が行われています。
1つ目は、スピーチです。1人はロバート・F・ケネディですが、あともう1人は分かりません(ジョンソン大統領かキング牧師でしょうか?)。
ロバート・ケネディは、1968年3月16日に、大統領選挙への出馬を表明しますが、そのときの演説の一節が引用されているのです。
「I am today announcing my candidacy for the presidency of the United States. (中略) I run to seek new policies - policies to end the bloodshed in Vietnam and in our cities, policies to close the gaps that now exist between black and white, between rich and poor, between young and old, in this country and around the rest of the world.」
2つ目は、ファースト・アルバム『シカゴの軌跡』に収録されていた、"PROLOGUE, AUGUST 29, 1968"の≪The whole world's watching≫というシュプレヒコールです。このシュプレヒコールは、次の"SOMEDAY"への橋渡しとなるとても重要な部分でした。
日付を見ると、いずれも1968年の民主党関連の出来事として、つながっているわけです。
ところで、ロバートは、この曲について、「アメリカの政治に幻滅したことと、シカゴの一部という文脈の中における自分の個人的な進化について語ったものです」と述べています。
言うまでもなく、ロバートは熱心な民主党支持者です。
しかし、1981年から2期8年間、共和党のレーガン大統領が政権を担った後、次期大統領を決める1988年の選挙では、またしても共和党のブッシュ(=父)候補が勝利を収め、翌1989年からも同党の政権が続くことになります。
そして、上記のとおり、ロバートのオフィシャル・ウェブサイトによれば、この曲が書かれたのは「1990年」なのです。
このような経過を追った上で、この曲の歌詞を眺めますと、いかにロバートが当時のアメリカの政治に幻滅したかを窺い知ることができて、実に興味深いものがあります。特に、『STONE OF SISYPHUS』バージョンでは割愛されてしまった歌詞がソロ・バージョンにはそのまま残っており、それらが選挙における敗退を物語っている点は見逃せません。
また、なぜ間奏部分に政治家の演説が挿入されているのかについても得心がいくようになります。
一方、シカゴの一部という文脈の中における自分の個人的な進化という点については、具体的にはよく分かりません。今後、じっくり考えてみたいと思います。
その他、詳しくは、ソロ・バージョンの私的感想をご覧になってください。
なお、この『STONE OF SISYPHUS』版"ALL THE YEARS"は、2003年発売の『THE BOX』にも収録されるに至っています。
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